なぜ名刺と封筒が別物になってしまうのか
名刺が切れたから名刺を刷る。封筒が足りなくなったから封筒を刷る。この進め方は自然ですが、数年繰り返すと、同じ会社の印刷物とは思えない一式ができあがります。
原因は、発注のタイミングがばらばらなことです。必要になった時点で、その時の担当者が、その時の印刷会社に頼む。ロゴのデータも、その時に手元にあるファイルを使う。結果として、ロゴの色が封筒と名刺で違う、住所の書式が揃っていない、書体が3種類混ざっている、という状態になります。
弊社がお手伝いする場面で多いのは、「移転するので封筒を作り直したい」というご相談から始まって、一式の不統一が見つかるケースです。作り直しの機会は、一式として設計し直す最も効率のよいタイミングでもあります。
一式に含めるものをどう決めるか
「ビジネスツール一式」と言っても、業種によって必要なものは違います。弊社では次の順で棚卸しをお願いしています。
ビジネスツールの棚卸し
社外の目に触れる頻度の高い順に並べると、優先順位が決まります。
| 区分 | 対象 | 優先度の考え方 |
|---|---|---|
| 必ず必要 | 名刺、長形3号封筒、角形2号封筒 | 相手の手に残り、保管される |
| 書類に付随 | レターヘッド、送付状、見積・請求書の書式 | 社内のWordやExcelの書式も含めて揃える |
| 業種により | 伝票、封緘シール、紙袋、社用車のカッティング | 対面・配送の有無で変わる |
| 社内用 | スライドの表紙、メール署名、ファイル背表紙 | 社外に出る可能性があるものは一式に含める |
社内用に分類したものも、資料の形で社外に渡ることが多いため、書式を決めておくと効果があります。
ここで重要なのは、印刷物だけでなく社内のOffice書式とメール署名まで含めることです。取引先が最も頻繁に目にするのは、刷り物よりもメールと添付ファイルです。印刷物だけ整えても、日常の接点がばらばらなら統一感は生まれません。
設計で先に決めるのは「可変部分の扱い」
一式のデザインで最初に決めるべきは、ロゴの位置や色よりも、変わる情報をどう扱うかです。ここを後回しにすると、運用開始後すぐ崩れます。
可変部分は主に4つあります。
- 部署名・役職:改称や組織変更で変わる。長い部署名が入ったときに崩れない設計にしておく
- 拠点の追加:支店や営業所が増えたとき、住所欄が1行で足りるか
- 連絡手段:固定電話を縮小する、FAXを廃止する、といった変化
- 肩書の併記:英文表記、資格名、複数部署の兼務
名刺で最も多いトラブルが、長い部署名や複数の資格名が入ったときの改行崩れです。設計段階で「最も長いパターン」を実在の社員の情報で組んでみると、ほとんど防げます。架空の短い名前で組んだデザインは、運用で必ず破綻します。
設計の順番
可変部分の決定を先に置くと、後戻りが減ります。
可変部分の洗い出し
最も長い部署名・役職・資格名を実在の例で確認。拠点追加や連絡手段の変更も想定する
共通ルールの決定
ロゴの最小サイズと余白、使用書体、住所の表記形式、色の値(特色かCMYKか)
個別の展開
名刺・封筒・レターヘッドへ適用。最も制約が厳しい名刺から着手する
運用資料の整備
増刷用データの保管場所、差し替え手順、発注先と仕様の記録
色の指定が一式の統一を左右する
一式がばらつく最大の技術的な原因は、色の指定方法です。ここは発注前に決めておく価値があります。
特色(インキを指定して刷る方式)を使うと、紙が変わっても色が安定します。コーポレートカラーを厳密に揃えたい場合は有力な選択です。ただし色数が増えると版代がかかり、小ロットでは単価が上がります。
プロセスカラー(4色の掛け合わせ)は、小ロットやオンデマンド印刷と相性がよく、写真も一緒に刷れます。一方、印刷会社や用紙によって仕上がりに幅が出ます。弊社では、プロセスで統一する場合はCMYKの数値を文書で固定し、増刷時にその数値で発注してもらう形をお勧めしています。
どちらを選ぶにしても、紙とインキの組み合わせを決めた時点で刷り見本を取り、保管することが実務上いちばん効きます。数値よりも実物があるほうが、次の発注で揃います。
色の指定方法の選び方
正解はひとつではなく、ロットと用途で決まります。
| 項目 | 特色 | プロセスカラー |
|---|---|---|
| 色の安定性 | 高い | 印刷会社・用紙で幅が出る |
| 小ロット | 版代が相対的に重い | 向く。オンデマンドも可 |
| 写真との併載 | 色数が増える | そのまま刷れる |
| 増刷の再現 | インキ指定で揃う | 数値の文書化と刷り見本が必要 |
単価は数量・用紙・印刷方式で大きく変わります。いずれも傾向としての目安です。
一式でまとめると発注の手間と単価が下がる
デザインの統一以外にも、一式での設計には実務上の利点があります。
まず、同時発注による効率です。名刺・封筒・レターヘッドを同じ印刷会社に同時に出すと、入稿のやり取りが1回で済み、色の確認も一度にできます。用紙を揃えれば仕入れ単位でもまとまります。
次に、増刷の判断が速くなること。仕様(用紙、色指定、寸法、入稿データの場所、前回の発注先と単価)を1枚の表にまとめておくと、担当者が替わっても同じものを再発注できます。弊社では納品時にこの表をお渡ししています。
そして、取引先に与える印象です。名刺と封筒とメール署名で表記が揃っている会社は、細部の管理ができている会社として受け取られます。BtoBの取引では、この地味な一致が信頼の下支えになります。
どのタイミングで着手すべきか
一式の整備は、何もない時期に着手すると後回しになりがちです。次のような変化があるときが、実際には最も進めやすいタイミングです。
- 移転・電話番号の変更(封筒とレターヘッドを作り直す必要が生じる)
- 社名変更・事業統合・ロゴのリニューアル
- 名刺の在庫が切れて増刷が必要になった
- 採用を強化する時期(応募者が目にする接点が増える)
いずれの場合も、作り直す1点だけを発注する前に、一式の棚卸しをしてから進めると、同じ費用でできる範囲が広がります。
弊社では、名刺・封筒・レターヘッドからOffice書式・メール署名までを一式として設計し、増刷用の仕様書とあわせて納品しています。既存の一式のばらつきの整理からのご相談も承っています。
