刷り直しは、時間と費用の両方を失う
印刷物は、刷ってしまえば直せません。データ不備に気づくのが納品後だと、費用が二重にかかるだけでなく、配布や展示会の予定そのものが崩れます。ここでは、実務で繰り返し起きる不備を10項目挙げます。
1. 塗り足し(裁ち落とし)がない
紙は断裁時にわずかにずれます。仕上がり線ぎりぎりまでしか色や写真がないと、端に白い筋が出ます。上下左右に3mmの塗り足しを付けるのが一般的です。
塗り足しと文字の安全領域
印刷の刷り直しで最も多い2つの原因は、この外側と内側の余白です。
中綴じ・無線綴じの冊子では、綴じ側(のど)にさらに余裕が必要です。
2. 文字が仕上がり線に近すぎる
断裁のずれで、端の文字が切れます。仕上がり線から内側に3mm以上(できれば5mm)は文字を入れないのが安全です。中綴じ・無線綴じの冊子では、綴じ側にさらに余裕が必要です。
入稿前に確認する10項目と基準
どれも事前に防げるものです。刷ってしまうと直せません。
| 確認項目 | 基準の目安 |
|---|---|
| 塗り足し | 上下左右3mm |
| 文字の位置 | 仕上がり線から内側3mm以上 |
| 画像解像度 | 実寸で350dpi |
| カラーモード | CMYK(RGBのままにしない) |
| 黒の指定 | 小さい文字はK100% |
| フォント | アウトライン化、または埋め込みPDF |
| 罫線の太さ | 0.25pt(約0.09mm)以上 |
| サイズ・トンボ | 仕上がりとドキュメントを一致させる |
| 総インキ量 | 300〜350%程度(紙と方式による) |
| 最終版の管理 | ファイル名に日付とバージョン |
強調した3項目が特に多く、そのうち最後の「最終版の取り違え」は確認の仕組みだけで防げます。
3. 画像解像度が足りない
画面では問題なく見えても、印刷するとぼやけます。実寸で350dpiが目安です。Webから取得した画像(72dpi)を拡大して使うと、ほぼ確実に粗くなります。
段階を分けて確認すると、手戻りが小さくなる
入稿直前にまとめて見ると、直せない段階で問題が見つかります。
構成段階
ページ数、仕上がりサイズ、綴じ方、部数、納期。ここで決めたことが以降の前提になります
デザイン初稿
全体構成、写真の使い方、文字量のバランス。この段階なら構造の変更ができます
二稿以降
可読性、余白、色。実寸で印刷して確認します。画面では文字サイズの判断ができません
校正段階
誤字脱字、数字、固有名詞、電話番号、住所、日付、URL。正誤は発注側にしか判断できません
入稿前
図2の10項目。ここは制作側の責任範囲です
誤植が最も残りやすいのは図版の中の文字です。デザイン作業で作られるため、原稿校正から漏れがちです。
4. カラーモードがRGBのまま
印刷はCMYKの4色で再現します。RGBのまま入稿すると、変換時に色が沈みます。特に鮮やかな青、緑、蛍光色に近い色は再現できません。ブランドカラーがこの領域にある場合は、事前に色の落としどころを決めておく必要があります。
5. 黒の指定が不適切
文字の黒をリッチブラック(4色掛け合わせ)にすると、版ずれで輪郭がぼやけます。小さい文字はK100%が基本です。逆に、広い面積のベタ黒をK100%だけにすると、薄く見えることがあります。用途で使い分けます。
6. フォントのアウトライン化漏れ
環境にフォントがないと、別の書体に置き換わります。入稿前にアウトライン化するか、フォントを埋め込んだPDFで入稿します。アウトライン後は文字修正ができないため、元データは必ず別名で保存します。
7. 細すぎる罫線
0.1mm以下の線は、印刷でかすれるか、逆に太って見えることがあります。0.25pt(約0.09mm)以上を目安にします。「極細」設定は避けます。
8. トンボ・ページ設定の不一致
仕上がりサイズとドキュメントサイズがずれている、トンボがない、見開きで作ったデータを単ページ入稿する——いずれも面付けの工程で問題になります。印刷会社の入稿仕様は各社異なるため、発注先の指定を必ず確認します。
9. 総インキ量の超過
濃い色を重ねると、インキが乾かず裏移りします。一般的な上限は300〜350%程度ですが、紙質と印刷方式で変わります。深い黒や濃紺の背景を大面積で使う場合は、事前に相談が必要です。
10. 最終版の取り違え
意外に多いのがこれです。修正版が複数ある状態で、古いデータを入稿してしまう。ファイル名に日付とバージョンを入れ、最終データは1か所にだけ置く運用で防げます。
入稿前チェックリスト
- [ ] 塗り足し3mmがある
- [ ] 仕上がり線から3mm以上内側に文字がある
- [ ] 画像が実寸350dpi以上
- [ ] カラーモードがCMYK
- [ ] 小さい文字の黒がK100%
- [ ] フォントがアウトライン化または埋め込み済み
- [ ] 罫線が0.25pt以上
- [ ] ドキュメントサイズと仕上がりサイズが一致
- [ ] 総インキ量が上限内
- [ ] ファイル名・バージョンが最終版
発注側が確認しておくとよいこと
制作会社に依頼している場合、これらのチェックは制作側の責任範囲です。ただし、発注側でも次の2点は確認しておくと安全です。
色校正を取るかどうか。 色にこだわる案件、ブランドカラーが重要な案件では、本紙校正または簡易校正を挟みます。費用と日数が増えるため、スケジュールに織り込んでおきます。
最終確認の責任者を決める。 誤字脱字、電話番号、住所、日付。これらは印刷側では判断できません。内容の最終確認は発注側が行うことを、あらかじめ合意しておきます。
進行段階ごとの確認ポイント
入稿直前にまとめてチェックすると、修正の手戻りが大きくなります。段階ごとに分けて確認します。
構成段階:ページ数、仕上がりサイズ、綴じ方、部数、納期。ここで決めたことが、以降の作業前提になります。
デザイン初稿:全体の構成、写真の使い方、文字量のバランス。この段階なら構造の変更ができます。
二稿以降:文字の可読性、余白、色。実寸で印刷して確認します。画面上では、文字サイズの判断ができません。
校正段階:誤字脱字、数字、固有名詞、電話番号、住所、日付、URL。内容の正誤は発注側にしか判断できません。
入稿前:本記事のチェックリスト10項目。
校正でよく見落とされる箇所
誤植が残りやすいのは、本文よりも次の箇所です。
- 表紙・裏表紙の社名、ロゴの版
- 電話番号、FAX番号(桁の入れ替わり)
- 会社概要の設立年、資本金
- 写真のキャプション
- 見出しの中の数字
- ページ番号(乱丁)
- 図版の中の文字(本文校正から漏れやすい)
最後の1つが最も多いです。図版はデザイン作業で作られるため、原稿校正の対象から外れがちです。図版内の文字も校正対象に含めるルールを決めておきます。
色校正を取るかどうかの判断
色校正には費用と日数がかかります。取るべきケースを整理します。
取ったほうがよい:コーポレートカラーが重要/商品写真の色が品質に直結する/初めて使う紙・加工がある/増刷で前回と色を合わせる必要がある。
省いてよい場合が多い:モノクロ中心/社内配布資料/短納期で色の許容範囲が広い。
判断に迷う場合は、簡易校正(インクジェット出力等)だけでも取ると、大きな事故は防げます。ただし簡易校正は本紙・本機での刷り上がりと色が異なるため、その前提で見る必要があります。
まとめ
印刷のやり直しは、多くの場合、事前に防げる不備から起きます。チェックリストを共有し、最終確認の責任者を決めておくだけで、事故は大きく減ります。
入稿前のデータチェックや、印刷仕様の相談も承っています。
